嫁くんの出産予定日が近づいてきた頃だった。
仕事中に母から電話が鳴る。
こんな時間に親から電話がくるなんて悪い知らせしかない。
祖父が死んだ
覚悟はしていた。
具合が悪く、そろそろだと聞いていたから。
それでも認証ナンバーを何度も間違えて入室できなかったのはやはり動揺していたのだろう。
祖父は長生きの部類だと思う。
一度倒れてから具合が悪くなり、動けないせいかボケも入ってきた。
それでも僕が遊びにいけば話してくれたし、寝てはいるものの意識はしっかりしていたと思う。
だが寝てる時間が長くなり、次第に顔つきも変わり、昔のぽっちゃりした面影は無くなっていった。
遠い県外に住んでいるため頻繁に会えず、それが容姿の変化を顕著に感じさせた。
ある日、祖父の家に遊びに行った。
もう昔とはまったく別人だ。
上手く歩けず、顔は痩せ、記憶の中の祖父とまったく違う。
そして僕のことを僕だとわかっていなかった。
とてもショックだった。
孫である僕を見ても僕だとわからないのだ。
どこを見ているかわからない目で僕を見ている。
なぜかその視線に合わせる事はできず、目をそらした事は今も覚えている。
もう僕の知っている祖父はいない。
祖父は少し心配症で、受験の時は電車の乗り換えに疎い僕のため、遠くまで一緒に出掛けてくれた。
登山に行く時は登山口まで軽トラで誘導してくれた。
新幹線で祖父の家に向かった時は軽トラで迎えにきてくれたが、半クラの概念を知らないのかレースのようなクラッチワークをしてくれ後頭部を何度もぶつけ二度と乗るまいと心に誓った。
そんな祖父が亡くなったのだ。
葬式では不思議と悲しくなかった。
とうの昔に僕の中で勝手にお別れしていたから。
もう知ってる祖父はいない。
目の前の棺の中にいるのは違う祖父だ。僕の知らない祖父だ。
そうして祖父の家を後にした。
数日後、嫁くんは無事に赤ちゃんを産む
出産に関しては後日書くつもり。
今回は2回目ということもあり順調に生まれたようだ。
人は死ぬ。
でもこうして生まれてくる命もあり、家族は減るばかりでもない。
親族がこうして増えていくんだ。
嫁くん、ありがとう。
産んでくれてありがとう。
その後2人の赤ちゃんの世話もあり、あわただしい毎日が過ぎていった。
子供に合わせて嫁くんも一緒に昼寝している。
眠れない僕はぼんやりと眠っている子供をなでる。
子供の背中にポンッと手を置きそのまま背中をさする。
ポンッ サスサス
ポンッ サスサス
ポンッ サスサス
・・・・あれ?
ふと気づく。
これってよく爺ちゃんが僕にしてたやつだ。
僕が小さい時から爺ちゃんは笑いながら「隊長よぅ」と背中をたたき、そのまま背中をサスサスとさする。
小さい頃も、中学生になっても、高校生、大学生になっても背中をさすってくれた。
社会人になってから会う頻度は減ったけど、それでも久しぶりに会えば背中やふとももに ポンッ とシワシワな手を置きさすってくれていた。
爺ちゃん。
気づいたら僕は子供の背中をさすりながらボロボロ涙を流していた。
涙をこぼしながら震えていた。
爺ちゃんが死んでしまった。
爺ちゃんが死んでしまった。
こうしていつも背中をさすってくれてた爺ちゃんがもう死んでしまった。
もう爺ちゃんに会って話すことはできない。
僕の子供は可愛い。親だからそう思う。
とても可愛い。愛してる。
爺ちゃんはどんな気持ちで僕をなでてくれていたのか。
僕の感じるこの感情と似たような気持ちだったんだろうか。
なんだかもう泣けて泣けて涙が止まらず。
この時初めて爺ちゃんが亡くなった事を現実として受け入れることができたんだと思う。
爺ちゃん、僕は今東京で頑張ってるよ。
東京に住むなんて思ってもいなかったけど。
子供は2人できてさ、下の子には会わせれなかったけど。
またいつでも遊びにきてよ。
そろそろお盆だね。
そうだ、爺ちゃん、精霊馬を用意するよ。
待ってるからさ。
是非乗ってみて。
作ってみた。
爺ちゃん
本当にありがとう。
なかなか思ってた大人になれないけど
爺ちゃん、それでもなんとか頑張ってみるから
爺ちゃん
爺ちゃん?
爺ちゃん??
爺ちゃん!
爺ちゃん! ?
誰だ!?
だからお前 誰だよ!?
爺ちゃん!!
爺ちゃーーーん!!!
みなさんよきお盆を。
ほんだばね。チーン
あとがき
ブログの写真を探しにパソコンを漁ってるとそこには元気だった祖父の写真がたくさんありまして。
ついブログ放置して写真を色々見ていってしまいます。
あぁこの時は爺さんとみんなとスイカを採取しに行ったなぁ、とか。
あぁこの時はまだ石川の実家に遊びにくる体力あったんだなぁ、とか。
会えるものなら会いたいです。
子供を見せたい、子供の話をしてみたい。
しつこい小言もまた聞けるものなら聞きたい。
でもね、そう思えるからこそもっと身近の人を大切にしないと、と思うわけです。
同じような後悔をしないよう今いる周囲の人を大切にしていきましょう。
その時その時を大切に。